【機材紹介】Marshall SV20H
2026-09-12

ギターアンプ紹介第2弾。 今回は割と最近入手した Marshall SV20H の紹介です。
ギター始めてから10何年、初めてマーシャルアンプを所有しましたよ。
これはプレキシなのか? プレキシと言ってよいのか? 色々あると思いますが、それ抜きでもいいアンプですよ。
Marshall 1959というロックの黎明期を支えた伝説のアンプの系譜をそのまま継ぐ一台が現代に誕生し、さらにはそれが現行モデルとして使いやすい形で購入できること自体、すごいことです。
また、このアンプを所有して色々試すこと自体が先人たちが歩んだ試行錯誤の追体験になるし、ついてはエレキギターの歴史へのリスペクトでもあると思っているので、他のアンプを超える意義を持ったアンプだと思っています。
まだ現行販売されている型番でありながら、今後名機と呼ばれるようになるのか、楽しみな一台です。
今回もまあまあ長くなっちゃいました。 スペックの話や実用性に加えて、思いの丈まで多めに語っちゃってます。
Marshall SV20Hとは
Studio Vintage 20 Head、それがSV20H。

Marshall SV20H。小さいながら1959の意匠を継承したデザインと直系のサウンド
一言で言えば、Marshallの伝説の真空管アンプ、1959 Super Lead をルーツに持つ20Wクラスのアンプヘッドです。
「ルーツに持つ」と表現しましたが、ここは少し掘り下げるとこのアンプの生い立ちをより深く理解できると思います。
まず、系譜としては、
- 1959 Super Lead(オリジナル)
- → 1959SLP (現代的アレンジも含めた復刻版)
- → SV20H (1959SLPの小型版)
となります。 ですので、オリジナルの1959 Super Leadの20W版ではなく、1959SLPの20W版という解釈がより正確です。
※1959には1987など他にも派生がありますが、それらは省略します。
元となった1959SLPについて
ではSV20Hの元になった1959SLPというアンプは一体どんなものなのか…?
1959SLPは確かに1959 Super Leadの現代復刻版ではありますが、「あのプレキシの復刻」という前に、もう少し掘り下げる必要がありまして。
まず、1959SLPのMarshall公式ページには以下のように書かれています。
1959は60年代末に製造を開始して以来、様々な回路的・外観的改良が加えられてきましたが、なかでも「60年代末から70年代初頭に製造されたモデルが最高!」というのがマーシャル信者達の一致した意見です。
私は生まれてない世代ですので、ここからは伝聞やネット調査の結果になってしまうんですが、この1959 Super Lead というアンプは生産時期によって音がけっこう変わるほどの仕様変更があったようです(※)。 結果として60年代末〜70年代初頭に生産されたものは、初期のものよりトレブリーで、ゲインが高くなっていたそうです。
同じ名称のアンプでありながら、時期でサウンドまで変わっていたそうですね。
無理やりクルマで例えるなら前期86と後期86みたいな感じでしょうか。けっこう違いますからねあれ。
つまり、1959SLPがターゲットにしたのは、ジミヘンの初期1959ではなく、ハードロック黎明期を支えた後期の1959ということになります。
その点で、「あのプレキシ = ジミヘンの初期1959」という前提に立った場合、1959SLPおよびSV20Hは少し前提が異なるアンプ、ということになります。
また、センドリターンが付くなど現代的なアレンジが入りました。 オリジナルはハンドワイヤードでしたが、1959SLPは基板を用いている等、生産方法も変わっています。
※トランスの仕様などコンポーネントも刷新され、サウンドの系統はそのままでありながら、歪みやすさなどはかなり変わっていたそうです。 外観もアクリルパネル(プレキシ)からメタルパネルに変わったようです。
改めてSV20Hとは
改めてSV20Hを簡潔に表現すると
- 後期 1959 Super Lead の現代復刻版である(1959SLP)を
- 小型化・20W化した
アンプと表現できます。
とはいえ、サウンドの系統は完全に1959です。 「系」で濁してよいなら「プレキシ系」といって差し支えありません。
ジミヘンの初期1959の忠実な再現ではありませんが、全体的な使い勝手や音の傾向は完全に広義のプレキシ、70年代のマーシャルサウンドです。
いずれにせよ、自宅で鳴らせる、かつ持ち運びできるプレキシ系として非常に実用性が高いアンプだと思います。
後述しますが歪ませやすいので、1959系統のドライブサウンドを求めている場合、このアンプはオリジナルよりかなり使いやすいと思います。
余談 オリジナル1959の体験談
ちなみに筆者は一度だけオリジナルの1959の実機を見たことがあります。 他の人が試しに使ってみてるのを間近で聞いたことがありますが、ちょっとあれはまともに使えないというか… 少なくともアッテネータは必須でしたね。ツマミちょっと上げただけなのに爆音だし、全然歪まないし…
一方、1959SLPについては実機を触ったことはありません。
Note
Marshallの1959SLPの公式ページに
"The classic ‘Plexi’ sound re-issued to absolute perfection. The amp that virtually the entire lexicon of rock guitar was written with is still in great shape"
とも書かれていますが、この"Plexi"はプレキシパネルの初期1959の名指しではなく、広義のPlexiサウンドの意味だと思います。100Wで、Inputが4つあって、マスターボリュームがないあの伝説のマーシャルアンプ…みたいな。
音について
背景の説明が長くなりましたが、今この時代、このアンプに興味を持っている方は見た目どうこうよりもまず音だと思います。 既に所有されてる方も、これから購入を考えている人もそうだと思います。
私も購入を計画していた時はとにかく音への期待が大きかったような。
全体的な音の傾向
音について
まずとにかくマーシャルの音がします。 歪ませるとキャラが顕著です。 クセがあるとかないとかより先に、あ、マーシャルの音だ、って印象が先に来ます。 ハイミッドに一癖ある、あのサウンドです。
マーシャルと共にあった時代の音楽に親しみがあれば、あ、これだ、という印象がより強いのではと思っています。
また、1959にしては意外と歪む印象もあります。こちらについても後述します。
録音だけでなく実際に演奏している間に抱く感想も同じで、とにかくマーシャル。 マーシャルの音だ、って印象が先行します。
マーシャルといってもJTM45, 1959, JCMその他色々あるのは承知の上で、それでも私個人としては、何というか最初に抱く感情は「1959」というより「マーシャル」です。
とはいえJCMなどと比べて特筆すべき点もあります。 特にギター側のボリュームやピッキングのニュアンスを変えたときの演奏に対するアンプの反応は、1959の系譜らしい挙動を感じます。 プレイヤー側のダイナミクスに繊細に反応してきます。 弱く弾いた時、ボリュームを落とした時、強い力でピッキングした時…。 プレイヤーの意図に対して、とても有機的な反応を返してくれます。
現行のマーシャルのアンプの中でも、このようにギター側のツマミやピッキングの工夫で表現を大きく付けたい方には、非常に相性が良いと思います。
JCM系以降のマーシャルはプリでもガッツリ歪みを作る設計なので、手元の工夫で真空管のプッシュをコントロールしたいタイプの方は、1959系統は非常におすすめできます。
マーシャルサウンド
「マーシャルの音」と先ほど書きましたが、もう少しこのSV20H向けに具体化してみます。
チャンネル1(HIGH TREBLE)を利用する前提で、特にMIDDLEツマミの挙動にマーシャルを強く感じます。 MIDDLEという名前ですが動作の中心はハイミッドであり、上げていくとマーシャルらしいバイト感、エネルギッシュな成分が強烈に出てきます。 上げるすぎると耳障りになるあたりもマーシャルらしいです。 ※悪い意味ではありません。そうなったら下げればよいので。
あとはPRESENCEもマーシャルらしいと思います。上げていくとかなりシャリシャリするし、上げすぎると耳障りになる設計もMIDDLE同様。
TREBLEやPRESENCEを0にして使う人がいるのも納得だなと思いました。
総じて高域はマーシャルらしい味が明確にあり、このアンプももれなくその特性があります。
歪ませると顕著で、十分な歪みがある状態だとJCM系統に近いサウンドにも聴こえます。ザ・マーシャルのハイゲインです。 一方で、ギター側のボリュームを落とすと1959らしい飽和感のあるクリーン・クランチまで行ける点もまた面白いです。
20Wゆえの違い
ただ、20Wになったためか、オリジナルと比べても少し興味深い違いがあります。
SV20H特有の挙動?
明らかに歪み始めるのが早いです。 チャンネル1(HIGH TREBLE) では、VOLUMEが10時くらいから歪みます。ここが大きな違いです。
オリジナルの1959といえばVOLUMEをけっこう上げないと歪まないアンプです。 しかも実機は歪む前から音がでかすぎてとんでもない代物。 オリジナルをモデリングしたアンプシミュレータでも、歪ませるにはVOLUMEをガッツリ上げる必要があります。
一方で、SV20HはVOLUME10時くらいから普通に歪み始めます。 ここはオリジナルや1959SLPと明らかに異なる挙動だと思います。 1959SLPの実機は触ったことはありませんが、スペック上はそうなるはずです。
おそらくこれは意図的な設計だと思います。
物理的には
- ヘッドルームの上限が低く、パワー管が歪み始めるのが早い
- 小型化に伴いトランスが小さくなっているはずで、オリジナルより早い段階で磁気飽和を起こす
といった設計上の限界が見えていますが、それも込みで、もっと手軽に1959の美味しい歪みを使えるように、意図的に回路定数が変えられているようにも感じます。
実際に使っていても、歪まないアンプという印象はまったくありません。
出力切り替えについて
出力は20W(HIGH)と5W(LOW)を選ぶことができます。

右側トグルスイッチを上(LOW)にすると5W、下(HIGH)にすると20W。スタンバイは真ん中。
基本的には20W前提で音を作り込むのがよいと思いますが、5Wにするとヘッドルームがさらに狭くなる都合上、20Wと比べて音量だけでなくサウンドも若干変わります。
5Wモードについては私の印象も後の節で詳しく述べています。
Note
なお、5Wでも自宅では音量はかなり大きいので、歪ませるならアッテネータはあったほうがよいです。
個人的には20Wで良いセッティングを探し、アッテネータ側で音量を下げるほうがよいと思います。
チャンネルリンク
1959系統の醍醐味であるチャンネルリンクも使えます。 2系統を並列で使う1959特有の技で、他のアンプにない音作りのアプローチです。 見た目のクセが強いですが、使いこなせれば強い味方になってくれるテクニックです。
1959を参考に作られたアンプは他メーカーを含めて数多くありますが、4 INPUTを使ったチャンネルリンクをそのまま使えるのは、SV20Hを含めた1959直系のシリーズだけだと思います。
このアンプはINPUTが4端子ありますが、左右の2端子をいい感じにパッチケーブルで結ぶことにより、2つのチャンネルを同時に鳴らすことができます。

チャンネルリンクの一例。メインのInputは左上で、左下と右上をパッチで接続する。これにより、上側の2端子に並列に繋いだのと同等になる
チャンネル1のGAINが "HIGH TREBLE"で、チャンネル2のゲインが "NORMAL" に対応します。 端子の下側に"LOUDNESS 1", "LOUDNESS 2"とも書かれていますね。
チャンネルリンクは、2つのチャンネルをブレンドすることと同じです。
1chが歪みやすくてハイミッドが強い、いかにもマーシャルの歪みです。 一方、2chは低域が強めで歪は弱めです。上げすぎると歪みますが、低域がモコっと主張してきます。 2つのチャンネルをいい感じにミックスしてやることで、EQとはまた別のアプローチで音域のバランスを変えることができます。
歪ませて使うなら、少しNORMALを足して、音の厚みを補強するイメージで使うと調整しやすいと思います。
筆者的には何に使いたいか
ここからは筆者の個人的な感想です。
どんな時に使いたいか
筆者(まくん)的にはどんな時に使いたいか
とにかくマーシャルサウンドが欲しい時。
もちろん、マーシャルと共にあったハードロック黎明期のロックサウンドは是非コレでやりたいです。
1959だと思うとかなり歪みますが、JCMから見ると歪みが少し控えめなので、主戦場はクランチです。 ゲインを上げれば十分ハードロックもいけますが、それでもこのアンプの美味しい部分はやはりクランチだと思います。
それゆえ、ギター側のボリューム操作やピッキングの強さで繊細にコントロールするタイプのソロパート、ニュアンス重視のプレイの場合は第一候補にします。
表現のレンジが広いので、プレイが上手くないと出音もいまいちになりがちですが、上手くいったときの表現力の豊かさは一級品です。 このアンプで上手く弾いてやろうって気持ちになります。
Fenderのコンボアンプも近い挙動ですが、こちらはよりハイゲインまでいけます。
また、ヴィンテージファズを使ったリードトーンや鈴鳴りを活かしたプレイにも相性抜群です。この目的なら特に第一候補になります。
別の使い道で、モダンなサウンドでも、特にジャキっとエッジが効いたクランチが欲しい場合は、このアンプを使うかもしれません。
ギター側も是非伝統的なものがイイ
また、このアンプを使う場合は、PUは出力低めの方が使いやすいと思いました。 これもあってか、奇しくもヴィンテージ系のギターと相性が良いです。
高出力PUでもそれらしい音は出せますが、ニュアンスマシマシで弾きたいときは、PU側のコンプレッションが強くて思うよういかないなぁと感じることがあるので。
先述のように簡単に歪ませることができるので、HR/HMもある程度いけます。 80'sくらいのマーシャルサウンドのHR/HMにも相性が良いです。
激歪までは作れませんが、ロックには十分な歪みが得られます。
個人的には歪の音の傾向もスタジオ常設のJCMシリーズより1959系統の方が好みです。
機材紹介第1回では Hughes and Kettner の TubeMeister Deluxe 40 を紹介しましたが、幸いなことにあちらとは明確に用途を棲み分けられています。 あちらはモダン系、こちらはオールド系。
ちなみにTubeMeister Deluxe 40の記事はこちら。
宅録中心
また、主にステージではなく宅録中心で使用します。
MASTER VOLUMEがない点、チャンネル切り替えがない点はステージやセトリ次第では少し不便です。 ステージは独立3chのTubeMeisterに任せて、このアンプは宅録(または演奏動画)専門で、最高のオールドマーシャルを録音するために使おうと思っています。
また、リアクティブロードがあれば最高です。
こういうパワー管をコントロールするタイプのアンプは、固定抵抗のダミーロードよりリアクティブロードの方が弾いている時の気持ちよさが全然違います。 リアクティブロードについても今後記事にしたいと思います。
5Wモードはオマケではない
このアンプは20W駆動と5W駆動が選べます。
5Wは自宅練習用のオマケ機能かと思っていましたが、実際に弾いてみた感想としては状況によってはあえて採用する価値があるかもしれないと思いました。
理論的にはヘッドルームの余裕が減るため、20Wよりもダイナミクスが小さくなります。
実際に弾いた印象も同じで、クリーン~クランチのダイナミクスが広い演奏をやろうと思うと、音量だけでなくレンジが狭くなってるのが分かります。 頭打ちが早いと言うか。 しかしながら、言い換えるとある程度雑にプレイしてもそれなりにいい感じにまとまってくれるので、これはこれで弾きやすいです。パッと弾いて楽しみたいときは、20Wよりも手軽に良い感じに聞こえます。
また、録音目的が前提になりますが、ハードロックでずっとハイゲインのままであれば、あえて5Wモードにした時の音の方がわずかに良く聴こえる可能性もあります。 レンジが狭まるとサウンド的にはコンプに近い挙動になるため、5Wの方が音量やニュアンスの均一化が強くかかり、結果的にムラがない演奏に聴こえる…という理屈です。 また、この使い方ですと、サウンドも少しだけJCM系統に近づく感じがします。
まぁ、こう書きはしましたが、そんなに大きい違いではありません。 ですので、この内容をもとに5Wモードに過度に期待して購入するのはあまりおすすめしません。 とはいえ、自宅練習用の域を超えた使い方があるように感じるのは事実です。
なお、前述した通り5Wでも自宅ではかなりの爆音ですので、アッテネータはなんだかんだ必要です。
筆者が感じる魅力
このアンプは「万能」ではないが、代えの効かない最高の個性がある
前回の TubeMeister は「万能」でしたが、このSV20Hは「万能」ではありません。
どちらかというとオールドマーシャルサウンド一点特化の超クセ強アンプです。
出てくる音以外の部分のクセは非常に強いです。
- MASTER VOLUMEがない
- チャンネル切り替えがない
に代表される制約が強く、一概に「コレだけ持ってれば何でもできる」という代物ではありません。
ただし 古き良きマーシャルサウンドが欲しい場合、このアンプの満足度は120% です。 この用途においては現状購入できるアンプの中では最も実用的で優れたパッケージだと思います。
プレキシ系が欲しい、プレキシ系の音が出したいと目的がはっきりしている段階であれば、購入に踏み切って後悔はないと思います。 というか、そこまで目的が明確に決まってるなら購入したほうが良いです。 現代においてこのような設計のリアル真空管アンプが生産されており、それがマーシャル公式から現行で販売されているということ自体、半ば奇跡のようなものだと思います。
シンプルゆえの魅力
1959系のアンプは回路としても比較的シンプルです。 少なくとも、後年のハイゲインアンプや後発ブランドに比べれば原始的な回路です。 後の時代から見れば、調味料ではなく素材の味で勝負しているようなイメージでもあります。
それゆえ、良くも悪くも電気回路としての真空管アンプの振る舞いが素直に出るアンプでもあります。 ですので、真空管アンプという電気回路の特性を体感しながら理解するツールとしてもなかなか良い教材でもあります。
GAINを上げれば音量も上がる…という話に限らず、5Wでヘッドルームの余裕が減り、コンプ感を感じられるようになる…などの話も含めてです。 このアンプで試行錯誤を繰り返して使い込むほどに、真空管アンプそのものの特性を理解して仲良くなれているような気がします。
このアンプ、どう設定してもマーシャルの音がする一方で、その中で自分好みの音を見つけたり、狙ったサウンドに近づける場合は結構な試行錯誤が必要です。 明らかにハイミッドが強いし、EQも相互に干渉するタイプだし。 しかもギターの出力に対しても敏感なので、ギターごとに美味しいGAINが変わったり、ギター側のVOLUMEやTONEを下げてやっといい感じに聴こえたり…。 そんな試行錯誤の積み重ねを経ないと、このアンプのポテンシャルを発揮できません。 ツマミこそ少ないものの、狙った音を出すには手元やアンプを含めて様々な調整が必要です。 一方で、その試行錯誤が十分でないと、ただ使いづらいアンプ、あるいは特定のギターや機材との組み合わせでのみいい感じに鳴らせるアンプの域を出ません。
そういう意味では、パッと手軽に色々なモデリングを切り替えて、良さげなものを取っかえ引っかえする最近のトレンドとは対極の位置にある機材です。
ただ、そういう有機的で泥臭い体験ができる点は、便利なモデリング・デジタル系はもちろん、多機能だったりいい感じの音が出しやすいブティックアンプとも一線を画す、1959系統ならではの魅力だと思います。
アンプの話からかなり話が膨らんでしまいましたが、今を生きるギタリストとして、歴史をリスペクトしつつ、かつて先人たちが踏んだ試行錯誤を今の時代に追体験できる機会に恵まれていること自体、幸せなことだと思っています。
じゃなきゃこんな記事書かないですからね…。 この記事を書けたこと自体が、私が実機アンプに触れた体験から得た成果とも言えます。
余談
余談ですが、筆者は特にボカロや音ゲー曲を中心に、エレクトロ系からバンド系まで幅広く手掛けており、DAWもBitwigとかいう明らかにバンド向けっぽくないものを使っています。 それゆえ、ここまでの記事で私のことを昔ながらのアナログスタイル偏愛のオールドスタイルなギタリストとお思いの方もいるかも知れませんが、実際はジャンルが手広いだけで、現代DTMerっぽいスタイルの人間です。 こんなナリなので、デジタルプラグインの躍進や、現状を取り巻くプラグイン市場もよく見ていますし、実際、いろいろ買っては取っかえ引っかえ、機材を深く理解しないまま数撃ちゃ当たるで試していた時期もありました。
それで分かったのですが、クリエイターは「合わなかったら脳死で別のモノを試す」スタイルを繰り返していても、何も経験を積み上げられません。 お気に入りのプリセットや素材は見つかるかもしれませんが、それだけでは応用ができません。 計算方法はわからないけど、いくつかの計算結果だけ知ってるような状態です。 プリセット、素材、プラグインをたくさん買っては取っかえ引っかえするだけみたいなやり方だと、自分の中で応用が効く基礎を積み上げられないし、ひいてはその制作の面白さの深いところに到達できないと思っています。
自戒を込めて、今を生きるクリエイターにこそ、今一度、なにか一つの機材にとことん向きあって、その機材を深く理解して120%使いこなせるようになってみる、そういう体験を一度やってみることを強くおすすめします。 音楽なら、ギターでも、お使いのDAWの標準プラグインの1つでも、何でもいいです。 それだけで多くの発見がありますし、ついでに色々買わずに済むので経済的です。
音楽プラグインは価格崩壊レベルのフラッシュセールを頻繁にやっていますが、そういうものに踊らされないことも大事です。 正直なところ、泥臭い試行錯誤の手間を省いて「楽をしたい」という気持ちに付け込んでカモにするようなビジネスが、クリエイターツール業界、特に音楽プラグイン業界では散見されています。
とはいえ、泥臭い試行錯誤を経た確実な軸を自分の中で1つ持てさえすれば、カモにされずに、自分自身で定めた判断基準で健全に制作や機材の選定ができると思っています。 もちろん、制作そのものや、その文化自体の深みや面白さもさらに引き上げてくれます。 実際に便利なツールもあるのでそれらは適切に使いつつも、一つ何か泥臭い体験を経ることで、より良いクリエイターになる点でも、一段深くその面白さを理解できる点でも良いことだと思っています。
グサっと刺さる方もいるかと思いますが、私もかつてそうだったので… 自戒を込めつつ、今最も私が大事にしている持論をここに述べさせていただきました。
ぜひ組み合わせたいエフェクターなど
Fuzz Face系
鉄板のヴィンテージファズです。 ジミヘンごっこはもちろん、エリック・ジョンソン風のリードトーンにも。 1959系でヴィンテージファズは黎明期の象徴でありながら、実際非常に相性が良いです。
Fuzz Face系をギターに直結してギター側のボリュームを下げるとできる「鈴鳴り」とも相性が良いです。
なお、この用途でファズを使う場合は必ずギター出力の直後にファズを挿してください。 その間にバッファになるようなエフェクターが入るとちゃんと動きません。 ノイズゲートはもちろん、一部のチューナーなどを入れるのもだめです。 例外としてTrue Bypassのエフェクターは、OFF前提なら入れても問題ありません。
これはFuzz Faceというエフェクターの入力インピーダンスがオカシイことを逆に利用した裏技みたいなものでして、ギターとFuzz Faceを直結させると、電気回路的にギターとファズが一心同体となって連動するという絶妙なトリックを使っています。 そのため、ギターとファズの間に何か入れてしまうと、電気回路的な結合が起こらず、ただ音をグチャグチャにするエフェクターになってしまいます。
また、マルチエフェクターのファズもだめです。 この用途で使うならヴィンテージ系のコンパクトエフェクターのファズ一択です。
さらにワイヤレスケーブルも使えません。とにかく電気的にギターとファズを直接繋ぐ必要があります。
このあたりは今後ファズの記事を作る際により深く掘り下げようと思います。 面白いですよ。
ブースター
ゲインの調整に使えます。もちろんミュートにも。
先述した通り意外と歪むアンプですので、クリーントーンをもう少し余裕を持ちたい場合、INPUT前に少し低域や全体の音量を削っておくと扱いやすくなります。
特定のおすすめがあるわけではありませんが、トランスペアレント系でアンプをプッシュしてもよし、TS系でキャラを付けても良い感じです。
個人的には EP Booster やそれ系のキャラがブースターを合わせるのが好みです。
ボリュームペダル、EQ
SEND/RETURNに音量調整ができるエフェクターを挿すことで、擬似的にマスターボリュームのようなものを作れます。
ただし、元々パワー管の歪みを活かすアンプですので、センドリターンにボリュームペダルを挿しても、完璧なMASTER VOLUMEのような挙動にはなりません。 ペダル量で音量はもちろん増減しますが、歪みもある程度一緒に増減します。 プリでも少し歪むのでクリーンまではいきませんが、SEND/RETURNでゲインを下げた時、歪みも減るなぁと感じられる程度には変わる点には注意が必要です。
あとは、応用としてプリ管とパワー管のプッシュの程度を細かく調整したい場合にも役立ちます。
番外編: 逆にエフェクターであれこれしないという選択
「ぜひ組み合わせたいエフェクター」ではないけど、このアンプは特殊なので。
いくつかのチャンネルを切り替えてクリーンからリードまで切り替えるような曲をやりたい場合は、そもそも複数チャンネルがある他のアンプのほうが良いと思います。
このアンプでそれをやる場合は、アンプはクリーンにしつつ、歪みをペダルで作ることになりますが、それだとこのアンプの良さを活かしきれないと思います。 そもそも、このやり方だと純粋にMASTER VOLUMEがないのが不便に感じると思いますし…。
歪みを足すなら、最初からペダルを足した前提で作り込むほうがよいでしょう。
このアンプは最高のマーシャルクランチをフルに活かし切ることだけに全力を注ぐほうが、最高のポテンシャルを出すことが出来ると思います。
※もちろん例外として、70年代に実際に使われていたペダルボード構成をそのまま再現したい場合は、ガッツリエフェクターを使いまくって良いと思います。
注意点
上面は塞がない
このアンプは上面と裏面に冷却用の通気口がありますが、特に上面の排気口はかなり熱くなります。
奥行きが大きいのでロードボックスなどを置くことは可能ですが、発熱が大きく排気口から出る空気は激熱です。 排気口を塞ぐように置いてしまうと故障の原因になってしまいそうで不安です。 黒い部分は熱くはなりませんが、万が一のことを思うとスマホもあまり置かないほうがよいです。
マーシャル全般に言えますが冷却は通気口ありきの構造なので、置き方は気をつけた方が良いと思います。
もちろん裏側も空間に余裕を持って配置したほうがよいです。

上面の網目になっている部分が排気口で、稼働中は熱々の空気がでてくる。これを塞ぐように物を置くのは避けたい。
特に使わない機能
DI OUT 端子
バックパネルに DI OUT という端子があるのですが、これは使いません。 いろいろな面でかゆいところに手が届かない上に、このアンプの特性を活かしきれていないよくわからない端子です。

真ん中あたりの端子がDI OUT。ポツンと付いているが、使い所は…特にないかも。
一言で言えばキャビシミュ付きのライン出力です。
しかし、このアンプはそもそもダミーロードを搭載していないので、無音でライン録りするなら結局ダミーロードが必要です。 ダミーロードの多くはライン出力が付いていますよね。
無音録音じゃなくても、MASTER VOLUMEがないため、「良い音を作って、その後に音量調整がしたい」場合はアッテネータが必須になります。 アッテネータもライン出力が付いているものがありますよね。
結局ライン録りの方法が別でありがち
つまりこのアンプから最高の音を作った状態で無音または好きな音量で鳴らしたい場合、ダミーロードかアッテネータが必要で、大抵そちらにライン出力がついているという状況になりがちです。
しかもこの端子はおそらくパワー管に入る前の信号を取っているはずです。
1959、プレキシ系のサウンドはパワー管の歪みを含めてあの音になるアンプです。 というか、パワー管の影響のほうが重要です。
パワー管を丸々スキップするDI OUTを使ってしまうと、このアンプの美味しいところを使えないので非常にもったいないと言えます。
加えてキャビシミュをオフにできないので、後から好きなキャビIRをかけることもできません。
このように惜しい点が多く、結局、ダミーロード(できればリアクティブロード)を繋いで、そこからライン出力を取り、後からIRをかけないと、このアンプの美味しい部分を活かし切れないため、DI OUT端子の出る幕がありません。
強いて言えば、最悪ラインアウトとして使えなくもない、という感じです。 IRローダーをPAに送りたかったけど、機材にトラブルがあり代替策として使う、みたいな。 でも、その場合もステージならマイク立ててPAに送ったほうが良いような…?
余談
なんでこんな中途半端な端子を付けたのかよくわかりませんが… まぁ、なんとか予想するなら、SEND/RETURNから信号を取れば楽に開発できる、とかそういう感じでしょうかね。 マーケティング的にはDI OUTがついてるってだけで(実際の使い勝手はともかく)仕様表自体はリッチになりますし。 JCM800の20W版であるSC20Hならまだアリなんですが…。
購入したほうが良いの?
私はあまり人に商品を勧めたりするタイプではないですが、現在現行販売されている機材ですので、せっかくなので私目線の判断基準を書き残します。
単刀直入に、スタジオあるいは宅録中心で、1959系・プレキシ系の音が出したい、と目的がはっきりしているのであれば、購入に踏み切って後悔はないと思います。
現代においてこのような設計のリアル真空管アンプが生産されており、それがマーシャルから公式に現行販売されていること自体、半ば奇跡のようなものだと思います。 そして実際に、求めている音が出てきます。
なお、個人的には同時にアッテネータも買っておくこともおすすめします。 なんだかんだ必要になりますので。
現在、新品でも入手可能ですが、在庫が割とすぐなくなるような…。 一方で、フリマアプリやネットオークションでは割と見かけるので、すぐ欲しいならそちらを狙うのもよいかもしれません。 クセが強いためか手放す人も多いのでしょうか。 欲しい人にとっては朗報かもしれません。
まとめ
記事にするにあたって1959からSV20Hの系譜を調べて整理したことで、このアンプの経緯や挙動を深く理解でき、とても良い勉強になりました。
MASTER VOLUME無しという漢仕様は今のギター環境ではクセでしかありませんが、それでも、欲しかった「あの音」が出てくる気持ちよさと、この1959系サウンドを現実的な範囲で使い倒せるパッケージとして、非常に完成度が高いアンプだと思います。
私も既に気に入っています。 前回のケトナーと使い分けながら愛用していきたいアンプです。
一方で、私自身、記事を書くにあたってかなり使ってみてはいるものの、それでもまだケトナーほど長い付き合いではないので、これから使い込んでいけばさらなる発見がありそうな気がしています。 そういう意味でも楽しみなアンプです。
今の時代、キャプチャーリグやVSTプラグインも、DAW上の音だけ求めるならばいい選択肢だと思います。
ただ、やはりこう、一回り小さくても実際に真空管をドライブさせて1959の操作感とレスポンスを手と耳で確かめるリアルな体験には、ただ「あの音」を求める以上の価値があると思っています。 だからこそ、私みたいな(比較的)若い世代にこそ、このアンプを手に取ってほしい、そんな気持ちもあります。
あと、やっぱり1959の系譜だけあって、このアンプはオリジナルの1959を鳴らして時代を作り上げてきたギタリストへのリスペクトがその根底にあります。
それはこのアンプがこの時代に登場した理由の一つであり、これを手に取る人が抱く思いでもあります。
まとめと称しつつ長くなりましたが、現役で生産・販売されているアンプでありながら、今後名機と呼ばれるようになるのか、すでに楽しみな一台です。
余談
前回、TubeMeister Deluxe 40を万能と評し今でも主力で使っている私がなぜSV20Hを追加導入したのか、その経緯についてお話します。
ここは本当にただの読み物なんで、興味がある方だけどうぞ。
購入した経緯 その1 〜 古き良き伝統の継承
なぜマスターボリュームのない、ある意味不便極まりない真空管アンプを所有したのか…?
私がこのアンプを所有するに至った経緯の一つに、彼らが1959と共に作り上げてきたハードロックの歴史をリスペクトしつつ、それを現代へ継承したい、その思いを最高の体験とともに体現するシンボルの一つにしたい、という思いがありました。
1959を手繰ってきた、あるいは手繰ったことがある、歴史を作ってきたギタリストへのリスペクトと、彼らのその「1959を鳴らした体験」に近い体験を、私も経験してみたい、ということです。
ハードロックの文脈では私は (ハードロックの頃の)Gary Moore や Michael Schenker の影響が強いです。 彼らはマスターボリュームの無いあのアンプからパワー管の歪を引き出したトーンとニュアンスを知っている。 彼らも時代が進むにつれてJCM800などにシフトしてはいますが、それでも、1959を鳴らした経験を持っていることが彼らのその後の音楽に影響していると思っています。 それならば、私もそれに近い体験をしたい。そういう感じです。
マーシャルがJCM800に完全移行した後の時代は、まずマスターボリュームはあるし、その他のハイゲインアンプがたくさん登場して、豊富で扱いやすいハイゲイン環境が完成していますからね。 一方で、歴史を作り上げてきたHRのギタリストは数多くとも、1959の経験があるギタリストは案外少ないのかもしれない。JCM800への過渡期を経たギタリストのみが持つレア体験の一つなのかもしれないと思って。 そして、私自身が彼らが奏でる音楽にピンポイントで惹かれたのも、1959のトーンや経験の影響かもしれない。 ともかく、そうした1959の音や操作感を「知る」という体験を自分自身で通過することは、アンプやHRの歴史に対するより深い理解につながるかもしれない。 そうであれば、このアンプは手に取れる範囲で最大限の体験をもたらしてくれるかも、と。 JCMはスタジオにたいていありますし、だいたいサウンドの傾向も掴めています。 でも1959は流石にありません。 なおさら、1959に興味が出てしまったわけです。
購入した経緯 その2 〜 極上の音作りへの憧れ
SV20Hの購入経緯、より具体的に言えば購入に踏み切ったキッカケは実はもう一つあります。
それは、単刀直入に言えば、Eric Johnsonのリードトーンを自分もやってみたかったからです。
実はエリック・ジョンソンおよび彼の楽曲を知ったのは割と最近なんです。
しかし、彼のプレイやサウンド、特に艷やかで伸びの良いリードトーンには衝撃を受けました。 しかもそれがファズと1959系のマーシャルから出ているのだからもう驚きでした。
私もこの音でギターを奏でてみたいと強く思いました。
そんなこともあり、半ば衝動的にFuzz Face系のファズと1959系のアンプに強い興味を持ち、探し始めまして。 1959のオリジナルは使いづらいし、そもそも入手が非現実的ということは分かっていたので、最低限実用性が担保されている宅録でも使いやすい、1959を系譜に持つアンプという制約をかけて探した結果、SV20Hに行き着きました。
ちなみにファズも同時に導入しています。 それまで、ファズといえば音がグチャグチャになる飛び道具くらいのイメージしかなく、実際には一度も使ったことがありませんでしたが、あのような芳醇なリードトーンにも使えるなら、試してみる価値はあるな、と。 さすがに生産完了していたEJシグネチャーのFuzz Faceは手に入りませんでしたが、十分良い他のファズを手に入れることができました。 そのファズも今後記事にしたいと思っています。
まぁ、EJの真似をするのは…さすがに現状ではまだまだ時間がかかりそうです。 ただ、プレイスタイルや音作りや機材への異常なこだわりなどの色々な面で、彼のおかげで私にとってギターがもう一次元楽しい楽器になったのは間違いありません。
ありがとうEric Johnson, Gary Moore, Michael Schenker, その他私の頭に浮かぶギタリストの方々…
