HHKB日本語配列版レビュー 歴史ある設計思想と実用性の融合
2026-09-20

今回はPFUのHHKB 日本語配列版の話です。 さすがにこのキーボードについて語らないわけにはいかないでしょうね。
なお、HHKB Studioではなく HHKB Professional Type-S の方です。
こだわり系キーボードの記事としては3つ目になります。
現在私は CROSSARROW60 という自作キーボードを使っていますが、これを手に取る前の数年間、このHHKBと共に過ごしておりました。 タイプした文字数も、現段階ではCROSSARROW60よりHHKBの方がずっと多いです。
HHKBは日本語配列版も英語配列版も持っており、どちらもよく使っておりました。 特に日本語配列版は長い付き合いでした。
今でも良いな~と思う部分が多いキーボードです。
ちなみに英語版についても後日別の記事としてまとめる予定です。
HHKBとは
もうこの記事にたどり着く人はよく知っていると思いますが一応。
HHKBはPFUが設計・販売しているPC向けのキーボードです。
キー配列は英語配列版と日本語配列版の2種類があり、この記事では日本語配列版を扱います。
色は墨、白、雪の3種類。
私が持っているのは雪モデルですが、現状は写真の通りなんかいろいろおかしなことになってます。

筆者のHHKB日本語配列版。雪だがキートップがなんかすごいことになっている
この写真の謎キー配置
他のキーボードも触っていた都合でUS配列の記号配置に慣れてしまったので、このキーボードの記号キーもUS配列に差し替えています。 OS側でもこのキーボードを無理やりUS配列として認識させて使っています。

記号周りはUS配列に変更した。余分なキーは他のキーに置換しているため無刻印キーを当てている
色は適当です。PFUから販売されていたカラーのキートップセットを組み合わせて使っています。 現状ちょっとゴチャついており、雪モデルにあった美しいミニマリズムは失われています…
Note
ちなみにJIS配列のキーボードをUS配列として認識させると、アンダーバーの単体キーが使えなくなってしまいます。
しかし、VK193 でキーを拾えるため、OS側で置換すれば使えるようになります。
HHKB公式のキーマップ変更ツールでは任意のキーコードを送信するようなカスタムはできないので、単純にアンダーバーを使いたいだけならOS側で設定する必要があります。

WindowsではPowertoysのKeyboard Managerで上のように設定すると単体アンダーバーのキーが使えるようになる
静電容量無接点
このスイッチ方式は HHKB, REALFORCE, NiZあたりしかなく、こだわり系キーボード界全体から見るとけっこう希少です。
物理的な接点がない構造で、スイッチ自体の耐摩耗性が高いことが特徴です。
打鍵感についても評判がありますが、この点は後の節で私の感想を詳しく説明します。
イケてる点
キーが多い
物理キーが多いです。 69キーあり、英語配列版の60キーよりも9個もキーが多いです。
JIS配列準拠の記号配置を除けば、やはり矢印キーと多めの修飾キーが魅力的です。
まず、やっぱり独立した矢印キーの存在はありがたいです。
なんだかんだ独立した矢印キーがあると便利。
もちろんJIS配列なので、スペース両隣の無変換、変換キーもあります。
Mac的にいえば英数・かなキーです。
無変換・変換キーも当然ある。IME切替に使う派も安心
IME切り替え派にも、Majestouch MINILA-R Convertibleのような親指Fn派にも適応します。
また、親指をストレッチせずに両隣のキーを押せる点も地味ながらメリットです。
最近のこだわり系キーボードではJIS配列でもスペースバーが異様に長く、両隣のキーがCやMよりも外側に追いやられているものが多いです。
あちらは親指をかなりストレッチしないと押せないため多用には少しストレスを感じるのですが、こちらはそんなことはないため自然なフォームで押せます。
修飾キーが多い
親指で押せるキーが多いです。
左右どちらも不自由なくCtrl, Alt, Winを網羅できるし、不要であれば何らかの別キーに置換してショートカットとして使えます。
個人的には、Fnを左右どちらでも自由にレイアウトできる点が魅力的です。
親指Fn、小指Fnのどちらも対応できます。
英語版では修飾キーが少ないゆえ左手側にFnが欲しい場合はかなり大きな犠牲を払うのですが、こちらでは心配ありません。
久々に触ると1uの修飾キーは若干狭いなとは思いながらも、右手でも左手でも修飾キーが網羅される点は改めて良いなと思いました。 ただ、修飾キーが大きめのキーボードから移行すると最初はかなり窮屈さを感じると思います。
乾電池式
リチウムイオンバッテリーではなく乾電池式です。
HHKBは 「馬は消耗品だが鞍は変えない。キーボードはそういう「鞍」だ」と謳っている ので、経年劣化が激しいリチウムイオンバッテリーではなく乾電池を採用したとの事です。 リチウムイオンバッテリーを採用してしまうと製品寿命のボトルネックがバッテリーになるためです。
一部ではこの仕様のせいで奥方向に変な出っ張りがでてるせいで見た目の良さを損なっているという意見もあるようですが…。 個人的には見た目の問題は気にならないので、設計思想に合った仕様選定の結果として好意的に捉えています。
Tip
有線モードであれば、乾電池を入れなくても動作します。
惜しい点
一応書きますが、日本語配列版は全体的に非常に使いやすく、英語版と異なり矢印キーや充実した修飾キーも備えており、汎用的でクセが少ないです。
ですので、個人的には特段強いマイナス点はありません。
ここでは強いて言えば気になるくらいの点をここで述べます。
キー配列の変更に若干制限がある
HHKB Professional Type-S シリーズはキー配列の変更を専用アプリで行えます。 WindowsまたはMacが必要ですが、GUIで簡単に編集でき、プロファイルを別途ファイルにバックアップできるので、自分でFWを書き換えるQMKよりは手軽です。
一方で、一部のキーの組み合わせは予約されている点は注意が必要です。
Fn+Control+1などFn+Q
といったキーの組み合わせには何も設定できません。 これは英語配列版と同じ制約です。 ※制限される組み合わせは若干違います。
私はどちらかというと変更不能な組み合わせを誤爆する方が怖いです。Fn+Qは「ペアリング待機状態にリセットする」であり、BT接続使用中にうっかり誤爆すると切断されます。しかもまたペアリングするのがちょっと面倒。
私はこれが嫌で、外出中以外は有線接続で使っていました。
Fn+Wなど、Qに近いところに何かコマンドを置くのが怖いです。
また、QMKのLT()のように、修飾キーの単押しに特定のキーを割り当てることもできません。
MIDI信号も送れません。
このあたりの複雑なコマンドセットが必要な場合はあらかじめ注意が必要です。
ブランドパワー抜きで見直すと…?
この記事のメインコンテンツ。
HHKBは英語版・日本語版どちらも一貫した設計指針・哲学のもと開発された洗練された製品です。
そんなHHKBは今なお圧倒的なこだわり系キーボードの一大ブランドとして確立していますが、個人的にはブランド力に押されて美化されている点も少し多いかな、と思っています。 この節では現在HHKBを取り巻く環境であまり言及されておらず見過ごされやすいポイントなどを、できるだけ中立的に寄せつつも、私の思うところを書いていきます。
静電容量無接点方式の「究極の打鍵感」?
究極の打鍵感と称されるキーボードのスイッチ方式です。
確かに「スコスコ」と評される独特の打鍵感があり、一般的な格安のメンブレン方式のキーボードと比べると形容しがたい満足感がそこにあります。
しかし、長年使ってきた、かつ実はREALFORCEもかつて使っていた私としては一つ申しておきたいことがあります。
それは経年で打鍵感は変わることです。
静電容量無接点方式は元々スイッチの圧倒的な寿命に価値があるスイッチ方式です。 馬は消耗品だが鞍は変えない。キーボードはそういう「鞍」だ、と謳っているし、実際に圧倒的な耐久性が必要なワケです。 この方式はその名前のごとく物理的な接点がなく、それゆえ摩擦による劣化と無縁になり圧倒的な耐久性を誇ります。
一方で、打鍵感は普通に劣化していきます。 数年バリバリ使った個体と新品を比較するとよく分かります。
打鍵感、つまるところ反発を生んでいるのはゴムパーツ(ラバードーム) です。 静電容量無接点のスイッチは劣化せずとも、ゴムは経年劣化し、結果として打鍵感が変化します。
ですので、静電容量無接点=打鍵感が良い、という認識をされる場合、特に新品の時の打鍵感がお好きであれば、その打鍵感は数年で変わっていくことは事前に把握されたほうが良いです。
数多のキーボードレビュワーがこの製品をレビューしていますが、少なくとも数年単位でHHKBを使い込んでいない人が「圧倒的な打鍵感」と評している場合、それは新品開封時点の打鍵感であることを念頭に入れておいたほうがよいです。
もちろん中古を狙う方も注意が必要です。
私個人としても、やっぱり新品当時の打鍵感のほうが満足感は高いです。 経年したものは少し馴染んで軽くなり、それもあってか「スコスコ」という感覚は新品時点から遠のきます。
とはいえ経年劣化しても静電容量無接点「らしさ」は残るので、劣化によって打鍵感は変化はしますが、個人的には大きな不満ではありません。 長々と書いたゆえ凄まじいデメリットに思われるかもしれませんが、個人的には許容できる範囲です。 何なら、愛着や長年使った勲章として美化できる…かもしれません。
一方で、私よりこだわりが強い方であれば、高級なメンブレンが比較対象になってしまうかなと思います。
それはそうと、ゴムが死んだらキーとしても死ぬので、このキーボードの寿命の実質的なボトルネックもまたゴムパーツです。 ゴムが壊れるまで使い倒せるかどうかはわかりませんが、何十年も鞍となるインターフェースを謳う製品としてはどうなのかと思わなくもありません。
しかもゴムパーツのアフターパーツは販売されていません。 嫌なら新品を買うしかありません。 それかサポート不能を覚悟の上、なんとかしてパーツを手に入れて自分で修理するしかありません。 このあたりのサポートが不十分な点は、先述の「鞍」の思想と現実が噛み合っていないように感じてしまうのは少し残念です。 まぁ、新品を買って貰わないと儲からないのもわかりますが…
余談 HHKB Studioについて
余談ですが、HHKB Studioがホットスワップのメカニカルキーを搭載したのは、賛否両論ありますが私は良い選択だと思っています。 メカニカルのキースイッチは静電容量無接点より壊れやすいけど、壊れたら交換すればよいし、替えのキーも現状手に入りやすいので。 実質的な寿命は引けを取らない上、メンテナンス性はProfessional以上だと思います。
PFU公式は打鍵感をアピールする方向にシフトしている気がしなくもありませんが、それはブランドとして継続していくために必要なことなんだと思っています。
検討される方は実際の使い勝手も含め、数年単位で使い倒した経験のある方のレビューも併せて調べられると良いと思います。
このキーボード、特に値段が高いですからね。 よく調べてご購入されることをおすすめします。
日本語配列版はHHKBじゃないの?
極論としてたまに見かけますね。
まず、そんなことないですよ。 そもそもHHKB 日本語配列版として販売されていますし。
…そういう話ではなく。
この極論の根底にあるのはHHKBの元来の設計哲学は英語版でのみ真に反映されているものであるということです。 日本語版は後発で、英語配列に濃縮されたHHKBの元々の思想の美学を失っている、と捉えた主張です。
私は結局、PFUがHHKBとして販売してるならそれはHHKBだと思います。 その上で、HHKBが持つブランド性・設計思想が、本当にHHKB英語版でしか得られないのか、私が思うところを少し書き下してみます。
そもそもHHKBの開発経緯や、HHKBが求めた機能性は今のPC事情よりもずっと古いUNIX系のCLIコンピュータ環境のもと培われたものです。 あれに最適化した設計思想としては素晴らしいものがあります。 一方で、今のデスクトップPC環境では多くの人がその美学の恩恵をフルに享受できないと思っています。
つまるところ、私の中ではHHKBのコンセプトは、
Control+何かを多用しつつ- 手の移動を最小化して効率的にタイプできる
- 無駄のない小さなキーボード
とまとめることが出来ると思います。
重要なのはFnではなく、Controlと何かの組み合わせを念頭に置いていることです。
日本語版でもControlはデフォルトでAの左にある。UNIX系CLIで多用するControlを押しやすくするためのデザイン
一方で、現在のデスクトップ環境ですと、UNIX向けに無駄を削ぎ落としたデザインの弊害として、現代では当たり前のように必要なキーが足りません。
矢印キーなどです。
これらはFnを駆使して補完することになります。
それゆえ多用するキーなのにFnを使わないと押せないと捉えられがちで、残念ながら「不便な点」として紹介される事が多いです。
そもそもUNIX系CLIのカーソル移動は Control+P とか Control+Bなどを駆使するもので、あの環境においてはそれらのコマンドは多用されます。
矢印キーではなくControl+何かを使うことも、ある種UNIX的な操作の美学でもあります。
そして、FnレイヤーはControl, Altとの組み合わせでは実現できないものを入力するためのサブ機能としてデザインされています。
となると、右端に置かれたFnよりも、Aの左にControlが置いてあること、(少なくともUNIX時代では)無駄なく修飾キーが網羅されている方が、設計思想の真髄に見えてきます。
逆の視点から捉えると、最初からFnを多用する前提であれば、もっと押しやすいところに配置するはずです。
それこそMajestouch MINILA-Rみたいな。
あちらは元々Fnを多用する前提のキーボードとしてデザインされたことがよくわかります。
日本語配列も、ControlがAの左にある点は共通しています。
その点では、修飾キーの数は大きく増えているものの、HHKBの元々の設計思想の血を残していると思っています。
キーの数が多いのはミニマリスト的な思想から見ると気になると思いますが、実用上はやっぱり便利です。
そもそもキーが少なかったら英語版と大して差別化になりませんし。
ミニマリズムは犠牲になったものの、日本語配列では実用性を優先してキーを増やしたのは英断だと思います。
英語配列の話になってしまいましたが、少なくともこのような英語配列こそ至高、みたいな話はHHKB日本語配列を購入する際は気にしなくてよいです。
いずれにせよ、実用を求めるならHHKB日本語版にしておいたほうが98%くらいの人は後悔しないと思います。
HHKBの英語配列版も所有していますが、あれはHHKBの元々の設計思想、美学に触れて、それを100%体験するためのキーボードだと強く思います。 実用性とかじゃなくて、その哲学を100%体験したい、そういうキーボードです。
現代のPC環境における実用性を求めるなら、多くの人は日本語配列版を選ぶべきだと思います。 その方が製品の設計哲学とニーズがマッチします。
一方で、実用性は残しつつも、記号配置やEnterの形が英語配列の方が良い…のであれば、私と同じ CROSSARROW60 は良い候補になるかも。 ニッチな自作キーボードであることは承知の上ですが、私にとってはこれが(現状の)最適解です。 あるいはこれに限らず、他の汎用的な65%~70%キーボードを選ぶのをおすすめします。
無刻印の美学
キーボードの印字を一切排除するという一派があり、PFU自体もそのようなキーキャップを販売したり、そもそも無刻印のモデルを販売しています。
かくいう私も、別の目的ではありますが1セット持っています。 先の写真にあった緑色のキートップがそれです。

再掲。緑色のキーは無刻印を採用
しかしながら、これはHHKBを味わう目的としてはオマケ寄りの要素です。
無刻印はパスワードの入力をミスった時に一気に牙を向いてきます。
左から◯番目だから◯か… などを考えればわかりますが、こんなのいちいちやってられません。 そんなこともあり私は刻印ありのキーキャップに戻しました。
どのみち、このようなこだわりキーボードを検討している層のほとんどの方は文字入力をする際に手元を見ていないと思います。 ですので、無刻印のメリットは見た目に究極のミニマリズムを宿すことができる点だけです。 使っていない時にふとデスクを眺め、その美学を嗜むためのものです。
私も一度試したことがあるからこそ、この美学、無刻印による究極のミニマリズムというのはキーボード界でもかなり極端な美学だな…と思っています。
憧れで一度試してみるのはヨロシですが、かなり人を選ぶと思います。 デメリットを分かったうえで一度体験してみるのであれば、それはそれで良いと思います。 特に、英語しか打てないLinuxのターミナル環境でHHKB英語版を駆使するのは非常に面白い体験になります。 このために存在するキーボードだ…!と強く感じられるので。
なお、墨モデルですとそもそも刻印が見づらいため、刻印ありのモデルも佇まいが無刻印のそれに似ています。
一方で、Fnではない通常レイヤー側のキー配置を大きく変更する場合、無刻印キーキャップは良い選択肢だと思います。
私の場合はEnterの真左の緑色の無刻印キーはUSの`が入っています。
本来この位置には]が入っていますが、USとして扱う場合はバッククォートの入力手段が無くなるためここに入れています。
印字と実際に入力される文字が全然違うくらいなら、キャップの印字がない方がデザインとして良く、実際に脳内の変換コストに余裕が出ると思います。
買いかどうか
私自身、人にものを勧めるタイプではないのですが、現役で新品購入できる製品ですのでせっかくなら私の今の結論を。
結論、コンパクト(60~65%) かつ 日本語配列 で、あまりクセが強くないキーボードをお探しであれば、割と誰にでも合うと思います。 英語配列と比べた美学の違いなどを考慮しなければ、カスタムの有無を問わず誰にとっても扱いやすい、良いパッケージのキーボードです。
その上で、価格を考慮するかしないかが大きい分かれ目になります。 競合と比べるとかなり高価ですので。
キーキャップの刻印については、無刻印に強い魅力を感じない限り刻印ありにしておいたほうが良いです。 無刻印にしたくなったら後でキーキャップを買えばよいので。
また、パームレストや、その類の手首の角度を調整できる道具はあったほうが良いと思います。 HHKB専用のものでなくても良いです。
また、手に入れる人が多いからか手放す人も多いためか、中古市場も割と球数が多いです。 中古もアリですが、何年くらい使われたのか、分解歴があるのかは注意して見たほうがよいです。
また、球数が多いゆえ売る場合も相場通りにすぐ買い手がつくかどうかはわかりません。 競合が多く、相場通りの価格ではなかなか買い手が付かないと思います。
まとめ
今でもなおコンパクトで実用的、クセが少ない良いキーボードだと思います。
このクラスのキーボードの中ではクセが強くない部分が、このキーボードの良さだと改めて感じました。
私は今は別のキーボードを使っていますが、たまにこれに戻ってもよいと思える良いキーボードだと思います。

